プログラムノート/ 広野和子

6つのバガテルより 作品126-3,4 ・・・ ベートーヴェン

バガテルbagatelleとは、本来“ちょっとしたつまらぬもの”といった意味のフランス語である。
ベートーヴェンは生涯にわたり26曲のバガテルを作曲している。これらは、大曲の間を縫うようにして書かれ、
シンプルな形式の中にも彼の心情が凝縮されている。作品126 の6つのバガテルは晩年1824年に書かれた最後の
ピアノ作品で、第9交響曲の仕上げの時期と重なり、彼の最後期の様式が短い曲の中に見事に閉じ込められている。
  
第3曲・・・終始穏やかな表情を持ち、音域の移行が地上と天国への往来のように思わせる。
 第4曲・・・短調で力強く始まるが、長調への転調や田園風な中間部を持ち穏やかさに向かう傾向がある。 


ソナタ第30番 ホ長調 作品109・・・ ベートーヴェン

苦悩と戦いの連続の生涯であったベートーヴェンがテーマとしていた「暗闇から光へ」。
過酷な運命を乗り越えた彼の魂や、浄化された精神が音に結晶したといえる最後の3曲のピアノソナタの1曲目の作品。
1820年完成で、晩年の大作「ミサ・ソレムニス(荘厳ミサ)」と並行して書かれている。叙情性や内省性をたたえ、
深い広がりをもつ精神世界が感じられる。

  第1楽章・・・テンポも性格も対照的な2つの主題を軸として組み立てられたソナタ形式。端正な外観の中に豊かな
幻想美が広がりをみせている。
第2楽章・・・第1楽章から切れ目なく演奏される。力強いエネルギーと沈静の交錯がみられるスケルツォ※1 的な楽章。
第3楽章・・・“心の底からの感情を持って、歌に満ちみちて”と記された主題と6つの変奏曲で構成され、作品の中核
ともいうべき充実した内容を持つ。
※1 スケルツォ・・・諧謔曲。語源はイタリア語で、「冗談」「気まぐれ」。急速な3拍子の曲


4つの小品 作品119・・・ブラームス

若き時代に多くの大曲を生み出したブラームスであったが、晩年には円熟した精神性により、深く掘り下げられた密度の
濃い一連の小品集を作曲した。1893年60歳に完成した作品119はその中でも彼の最後のピアノ作品となる。内面的な孤独感、
憂鬱で寂寥感のあふれた第1曲。第2曲では自身の孤独と戦うような焦燥感がある中、慰めのような中間部が対照的である。
第3曲はリラックスしたスケルツォのように気分が一転し、優美な快活さやウイットに富んでいる。最後の第4曲では若き
時代がよみがえった如く、重厚な響きのある和音、情熱とエネルギーが満ち溢れ、ブラームス自身、最後に再び彼の存在
を証しているかのようである。
 


バレエ『ロメオとジュリエット』からの10の小品 作品75より・・・プロコフィエフ

シェイクスピアの悲劇に基づく自身のバレエ音楽(1936年)を、プロコフィエフはその後、管弦楽用の3つの組曲と、ピアノ
独奏用の「10の小品」(1937年)に編曲する。これらは、バレエの筋に沿った順序で配列はされていない。

  4.少女ジュリエット・・・ジュリエットが登場する場面。活発に飛び跳ねる様子や、女性らしい優雅さ、また恋への憧れ
と揺れる気持ちなどが描かれる。
6.モンタギュー家とキャピュレット家・・・舞踏会での騎士と貴婦人たちの威圧的で重厚な踊り。中間部は、ジュリエット
と両親が結婚を勧めるパリスとのゆったりとした踊り。
7.僧ロレンツォ・・・ジュリエットとの結婚を願うロメオが訪ねてくる。ロレンツォは二人の結婚が両家の争いに終止符を
ってくれるのを願い密かに結婚式をとりもつ。
8.マーキュシオ・・・ロメオの友人が舞踏会に飛び入り、愉快な踊りで重々しい雰囲気を吹き飛ばす場面。


ソナタ第2番 二短調 作品14・・・プロコフィエフ

幼少より両親から良い音楽的環境と教育を受け、9歳のころには自分で作った台本によるオペラの作曲を試みている。
交響的民話「ピーターと狼」をはじめとして、プロコフィエフが自ら台本を手掛けるのはその後の人生にも及び、のちに作
として自伝や随想集も書いているように、独創性豊かでクリエイティブな才能を持っている。おとぎ話、ユーモア、社会的
風刺にとても敏感で音楽にも取り入れられている。こうした一面はソナタ第2番にもみられる。ロシアのサンクトペテルブル
ク音楽院の学生であった1912年21歳の作品で、革新的と同時に若いころの特徴である強烈な抒情性と相まって、全楽章にわ
たっておとぎ話が盛り込まれているかのように、イマジネーションが掻き立てられる。

  第1楽章・・・不協和なパーカッシーヴな第1主題と抒情性あふれる第2主題によるソナタ形式。
第2楽章・・・短いスケルツォ。プロコフィエフが得意とするトッカータ風の書法による。
第3楽章・・・メロディーが多声に重なり、瞑想的かつ抒情感があふれる。
第4楽章・・・エネルギッシュな中、ユーモアのセンスが光る個性的なタランテラ※2。
※2 タランテラ・・・イタリア、ナポリの舞曲。6/8拍子のテンポの速い曲。